夜天光 13

〜はじめのお詫び〜
がびーん。一話ふっとばしちゃった。もっかい書き直し・・・
BGM:Celine Dion BECAUSE YOU LOVED ME
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「ええ?!なんで二人一緒なの?」

店に現れた総司と理子をみて、藤堂が驚いた。カウンターに座りながら総司が仕事、と言った。

「だって、帰ってからしばらくは仕事入れてないっていってたじゃん!」

藤堂がじろりと、総司を見ると仕方なく隣に座った理子が肩を竦めた。

「そうなの?今日のリハで調律に、ね。私もここのところ来てなかったからたまたま一緒にってところ」

藤堂が油断も隙もない、とぶつぶつこぼしている。

「正々堂々抜け駆け?」
「まったくだよ」
「そっちの方が先」
「俺?」
「そ。空港? 」

男同志が短い会話で、何かお互いの腹を探り合っている。空港と言われて藤堂がう、と言葉に詰まった。

「あれはさ、二人とも仕事だったじゃん?別に都内に帰るのは一緒だし、久々の帰国だろうし…、仕方ないじゃん」
「仕方ないですよね。だから仕事も仕方ない」

言い負かされた藤堂が、返す言葉をなくして総司の前で腰に手をあてて立った。

「ほんっと、昔からいい性格だよね!さ、注文は?」

他に言うことがなくなったからか、店員らしい藤堂のいい方に理子が吹きだした。そして、軽く何か食べられるものと、ソフトドリンクでカクテルを頼む。総司は、酒があれば、と言った。

「りょーかい。ちょっと待ってて」

簡単な食事やつまみならカウンターの中でも作ってしまう。藤堂は、一瞬裏へ行くとすぐに手に白いものを持って戻ってきた。不思議な形をしてる。

カウンターの中で手早く切って皿に盛りつけたものを二人の前に出した。

「食べてみて?」

そう言うと、理子のノンアルコールのカクテルを作り始める。不思議そうに手を伸ばした理子が、これ、と口にした。

「もしかして白いナス?」
「すごい、よくわかったね。白ナスの種類なんだけどさ。すっごいジューシーだよ」

軽く外側は撫でるように塩を振ったので、塩気があるものの、噛みしめるとフルーツのような瑞々しさに理子が驚いた。その感想を待ってから総司が手を伸ばした。

「すごい、藤堂さん、これ美味しい」
「ほんとだ。ビールじゃない酒がほしくなるかも」

すぐに総司が同意した。理子のカクテルを作ると、総司の分は薄めの水割りにして二人のグラスをカウンターに置いた。このあたりがさすが、というところだろう。

その後は、理子の住んでいた街の話やリハの話をしながら、藤堂は目の前で一口サイズのパンにアボガドディップを乗せたものを作って、理子の前に置いた。

妙なぎこちなさは藤堂のおかげでほぐれたようで、たわいもない話ならいくらでも穏やかにできた。

「そろそろ帰るね」

理子は、自分の分をカウンターに置いて立ち上がった。総司はすぐにそれを理子の手に戻した。

「今日は誘ったのは私ですから」
「そんな、自分の分ですから」
「そういわないで」

総司が藤堂に支払いを頼むと、押し問答していても仕方ないので、理子が素直に引いた。

「ありがとうございます。今度お返しさせてください」
「そうですか?楽しみにしておきますよ」

支払いを済ませると、総司は理子を送ると言った。

「なんだ、近いじゃないですか。送りますよ」
「いえ、電車もまだあるし」
「どうせタクシーで帰るついでですから」

店の前でタクシーを止めて、理子を先に乗せた。あとから乗り込むと、理子の最寄駅に向かってもらった。ふと、しばらく走ってから、総司が口を開いた。

「そうだ、忘れてました。ちょっとうちに寄ってもらっていいですか?」
「はい?」
「ピアス。返すっていってたでしょう?」

総司は二人だけで話をする口実としてずっと家に置いていたことを持ち出した。
理子にもそれは伝わったのだろうが、避けていたとしても仕方がないことも分かっている。仕事をしていれば今日のようにどこかで会うこともないわけではないのだ。

「分かりました」

理子が答えると、総司は行き先を自宅に変えた。

総司のマンションの前でタクシーを降りると、理子を伴って自室に向かった。
玄関の鍵をあけると、先に理子を中に入れてから自分も部屋に入った。部屋のリビングには部屋の真ん中にピアノが置いてある。壁際のソファを指して、どうぞ、と理子に促した。

「一橋さんのお部屋も防音なんですね」
「最近、増えてきたんで助かりますよね。神谷さんの部屋にもピアノ置いてるんですか?」
「いえ、まだ。一度処分してしまったからまだ買ってなくて」

理子の座った脇のサイドテーブルに総司がティーカップを置いた。

「ティーバックの紅茶ですけど。そんなのしかなくてすみません」
「いえ、かえってすみません」

総司は、理子の目の前の床の上に直に座った。身構えるように理子が手にしていたバックを胸に抱える。

「話を……してもいいですか?」

総司の目が自分を追っていることがひしひしと感じられて、理子は顔を伏せた。どのみち、話をしなければならないことは分かっていて来たのに、いざとなると顔を見ることもできない。

理子の返事を待たずに総司は口を開いた。

「全部、思い出しましたよ。……貴女を想っていたことも何もかも」

片膝をたてて座った総司は、自分の膝を抱えるようにして伏せられた理子の顔を見続けた。

「神谷さん。私は貴女に幸せになってほしかったんです」

怖い。

―― 怖い。

理子の伏せられた顔が歪む。今、もう一度あの時と同じ思いなどしたくはなかった。

 

– 続く –