船乗りの魂 藤堂Ver

〜はじめの一言〜
参戦!!しちゃたよおい。。。
BGM:Diana Krall Fly Me to the Moon

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藤堂は、理子がいなくなってから、毎日メールを送り続けていた。
その傍らで、ボロボロになるまで自分を傷めつけ続ける二人の男を見ながら。

「二人ともちっともわかってないよ、神谷」

 

過去の話を聞いて、そして今生の理子を見ていた藤堂は、斎藤と並んで、一番理子の気持ちを理解していた。
かつて、自分を永遠に刻むのだと憎しみにまみれた理子が、ギリギリのところで、総司を庇い、歳也を許そうとして、逃げるように日本から出て行ったのはまるで昨日のことのようだ。

 

未だに、理子の心の奥底では、総司や歳也が過去に対して苦しむ姿を、喜んでしまうかもしれない、という恐れがあった。二人が苦しめば苦しむほど、それは同じくらい理子を好きだということだからだ。

それは、藤堂には理子の中で、最後の頃の富永セイを神谷清三郎が暗闇から引き戻そうとしているように思えた。結局、彼女はどこまでも彼女であり、あの心優しい魂は、鬼にはなれはしないのに。

まだ、自分を阿修羅だと、鬼になったのは自分だと責め続けている理子に、藤堂はメールを送り続けた。

 

『帰っておいで』

 

言い続ければ必ず理子の心の中で、大きな力になる。
そうでなければ、理子が永遠に戻ってこられなくなる気がしたのだ。

―― 僕の今生でのやるべきことって、こういうことだったのかなぁ

藤堂は、時々そんな風に思えた。昔のように、誠を尽くす相手もいない今、店に来る客と過ごす時間や、楽しげにさざめく様子を見ているのは大好きだ。
今の仕事は、本当に向いていると思う。

 

それなりに女の子にもモテはしても、長続きしないのは、きっと藤堂の中での女の子の一番が理子だからだろう。優先順位はずっと変わらずに来ている。今後も変わることはないだろう。

 

「これじゃ、斎藤さんのほうがうまくやってるよなぁ」

思わず藤堂はこぼしてしまう。斎藤は、病院関係の紹介で付き合い始めた人と、神谷が戻ったら婚約するらしい。
あの無表情な斎藤が、一度だけ彼女を連れて店に来たことを思い出した。

「大事な友人だ」

そう紹介された藤堂は、優しげな女性をみて、心底うれしかった。自分をそう言ってくれる斎藤も、斎藤が選んだ女性が優しそうで、とってもお似合いだったことも。

 

そんな斎藤に呼び戻された理子が、帰りにくくて、ジャズを習いたいという名目でもう3か月もN.Y.に滞在している。
そこに歳也と総司が行くらしい。二人とも仕事だというが、まるで姫を迎えにナイト二人が行くようではないか。

そんなことは黙ってはいられない。藤堂は二人に旅費を出させる約束を取り付けて、二人の行程に自分を割り込ませた。

仕事に向かった二人がいない間に、藤堂は理子の泊まっているB&Bから出てくる理子の後をずっとついて歩いた。

 

神谷。二人には秘密だよ。僕だけが知っている神谷だね。

 

藤堂が後ろにいることに気づかない理子が、一人で見せる姿に藤堂は少なからぬ優越感を抱いてかけがえのない時間を過ごした。

その時間は藤堂の中で大事な秘密になる。

 

―― 二人がもしこんなことを知ったら、悔しがるんだろうな

 

そう思うと面白くて仕方がなかった。時計をみて、理子と約束したチャットの時間だ。わざわざ持ってきたノートPCで藤堂は何食わぬ顔で、会話を始める。まさか、こんな近くから送っているなんて、理子は気付くまい。

 

 

『神谷ってば、寄り道にどれだけかけるのさ?』

 

あと少し待てば、本物の理子に会える。藤堂は、すぐ近くにいるのに、声が聞きたくて、触れたくて、それが待ち遠しくて仕方がなかった。

 

– 終わり –