サンタクロースへの願い事

〜はじめのお詫び〜
クリスマスのお話が消化不良かなと、書いた本人が足りなくてこんな時間に追加です。
BGM:小田和正 My home town
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隣で眠る人を起こさないように、そっと起きだしてシャワーを浴びて戻る。恥ずかしいと嫌がるので、彼女がシャワーを浴びて戻ってからも、胸に抱いて眠りに落ちるまで話して。

濡れた髪を乾かすのも面倒で、それでも同じ部屋にいたくて、エアコンの温度を少しだけあげる。

枕元に置いてある水を取り上げて少しだけ口に含むと、灯りが遮られて、理子の瞼が揺れた。起こしてしまったかと息をつめてその寝顔を見つめていると、再び安らかな寝息に落ちて行く。

部屋の中は温かいけれど、外気温が恐ろしく下がっていることはカーテンの隙間から入り込む冷気で十分に分かっていた。それでも、総司はそっとカーテンを開けて少しの間から、月を部屋の中に招き入れる。

ベッドを背もたれに月を眺めた。

満月より少しだけ掛けているのだろうか。ほんの少しだけまん丸からいびつな月が煌々と輝いていて、それほど晴れているならば、寒いのも納得できる。
いくらエアコンをつけていても、先ほどまでの溢れるほどの熱も、窓ガラス越しに伝わってくる冷気があっという間に冷やしていく。急速に体が冷えるのを感じて、首にかけていたタオルで濡れた髪を拭ったのはしないよりはましなくらいのささやかな抵抗で。

あの頃は、もっと冷える夜もあった。彼女と離れてからどんな暖かい日も汗ばむような陽気になっても、心は凍えたまま。

 

そんな自分に、言ってやりたい。

 

今。この腕に抱き締めて、愛していると、素直に言えることを。

そうすれば、少しはましな人生になったのではないだろうか。もう少し彼女に、今よりももっと早く出会えていたかもしれない。

本当にサンタがいるなら、時間さえ飛び越えて、あの頃の自分に、伝えてほしい。あの頃の彼女に伝えてほしい。

私達の魂は、忘れずに出逢うからと。もし記憶がなかったとしても、自分達は必ず出会って、愛し合って、共にいるからと。

 

今頃、PCの中ではサンタクロースが世界中を配達して回っている頃だろうが、どうか世界地図には乗っていない場所へ届けてほしい。

 

「……冷たい」

不意に頭の上から振ってきた声と髪を触る手に、頭を上げた。ベッドの上から指先だけが見えていて、総司の髪を触っている。
何度も湿って、冷たくなった髪に触れて、少しでも暖めようと思ったのか、指に絡めとられる。

「……起してしまいましたか」

返る声はないまま、髪を触っていた手が、頬に触れた。その手に自分の手を添えて、自分よりも彼女の手が冷えないようにと思いながら指先に口付けた。

「……明日、起きられませんよ?」

そういうと、するりと手が逃げて、再び頭のてっぺんを触っている。それがなんとも言えない位気持よくて、そのまま目を閉じたくなった。

しばらくすると、指先が優しく、とんとん、と額の生え際のあたりを叩いた。もう少しだけ、と思っていると、叩く指先が移動して、耳の後ろをすすっと撫でた。
さすがにくすぐったくて、目をあけるとすっかり部屋も自分も冷え切っていることに気づいた。

手をのばしてカーテンを閉めると、まだ湿ったタオルを傍に置いて、ベッドに滑り込む。冷え切った体を傍に寄せないようにしているのに、腕が伸びてベッドの真ん中の温かい所に引き寄せられた。

「……サンタ、空飛んでました?」

胸元にぎゅっと引き寄せられて、暖かくて柔らかい匂いに目を閉じた。

「ええ。飛んでましたよ。流れ星みたいに早くてびっくりですよ」
「そりゃ、たくさん配らなくちゃいけないですもん」
「でも、願い事したかったんですよね」

ふふっと胸元が揺れて、耳元で笑いを含んだ声がする。

「サンタと流れ星が一緒になってません?サンタは良い子のお願いをちゃんと聞いてくれますけど、配る日に願い事はどうかなぁ」
「じゃあ、来年で」
「うわ、一年越しですか?」
「……もっと。もっとですよ」

自分に回された腕から抜け出して、代わりに彼女の首の下に腕を差し入れる。ようやく感覚が戻ってきた足に、温かい足を挟んで、全身を懐に抱いた。

「幸せだと……」

言いかけた途中で今度は総司の胸元に、頭がすり寄ってきた。

「昔の、私と貴女に……、幸せだと伝言をしてほしくて、サンタを待ってたんですよ」

最後まで言い切った後に、トントン、と胸元を指先が叩いてきた。その優しい指先に子供のように眠気を誘われて、懐に温もりを抱いたまま眠りに落ちる。

 

 

来年でもいい、さ来年でもいい。

きっとまたその時、同じ想いを抱えているはずだから。

どうか伝えてほしい。幸せだと。愛していると。

聖なる夜の奇跡があるなら、届けてほしい。

 

Merry Christmas

 

– 終 –