情熱の伝え方

〜はじめのつぶやき〜
青春の若者と大人の対比になりました。タラすよりも若いっていいねー、って感じになってしまった。

BGM:
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セイの小柄な姿が忙しそうに動き回るのを見つけると、思わず口元に笑顔が浮かぶ。そしてその後にどうしようもなく面白くない感情が浮かぶのは条件反射になりつつある。

十番隊という、隊部屋まではるかに離れたところに配属になってから、屯所内で見かける機会さえ貴重で、時には一月も顔を合わせないでいると、セイを目の前にしただけで半泣きになる。
その度に、ほとんどの隊士の笑いと、一部の幹部からの叱責と、本人からは蹴りが飛んでくる。

これもまた恒例になりつつあった。

「うっ、神谷ぁ」

寝言と共に起きた姿を爆笑されるのも仕方がない。若いのだから、これも条件反射なのだ。
まだ熱の収まらないまま顔を洗いに出た後、込み合った井戸端から少し離れて、物干しの近くまで移動すると運がいいのか、早々と起き出していたセイの姿を見かけた。

「げっ!中村っ、お前なんでこんなとこまで来るんだよっ」
「ご、ごふぁいだごふぁい。いろばらがふぉんでたから(誤解だ誤解。井戸端が混んでたから)」
「ふーん」

慌てて房楊枝を咥えたまま誤解を解く。こんなところでせっかく朝から会えたのに、不機嫌になってほしくないと中村が思ったのも無理はない。
セイは興味もなさそうに鼻を鳴らすと、再び格闘していた洗濯物へ戻った。

その手に握られているのは見慣れた、セイのものではなくてその上司である人のもの。途端に口にしていた房楊枝が手と一緒にだらりと落ちる。
いつまでも動かない気配に、セイが苛立った目を向けると、そこに立ち竦む中村がセイを凝視していた。

「なんだよ?!何見てんだよ、さっさと行っちまえ」

怒鳴りつけたセイの傍に、行けといわれた言葉と逆に中村が近づいた。

「それ……、沖田先生の夜着だよな?」
「だからなんだよ!」
「なんでお前が洗ってるんだ?」
「そんなのお前に関係ないだろ!」

薄っすらと頬を染めて答えるセイに、もう一歩中村が歩み寄った。

―― わかってるけど、そんな物までお前が洗ってると思うとむかつく!!

歩み寄ってくる中村にセイが洗濯物から手を離して、立ち上がった。

「何だよ?お前に関係ないだろ?……」

もう一度繰り返される言葉。

あっという間にまだ夜着から着替えていない中村が傍にあった木までセイを追い詰める。

「おや、おはようございます。中村さん」

中村が腕と口を動かそうとした瞬間を狙って、一番聞きたくない声が爽やかに現れた。
総司は稽古着姿でセイに向かって、そろそろ朝稽古をしますよ、と話しかけている。

「うわ、そんな時間ですか?間に合わない~」
「いいですよ。そんなもの、後にすれば」
「駄目ですよ~。今日は午前中に巡察あるから、せっかくこんないい天気なのにっ」

ざばざばと仕上げにかかったセイをため息をついて微笑んだその人が膝から下をたくし上げて一緒にしゃがみこんだ。

「手伝いますよ。というか、ほとんど私のですもんね」
「そんな!いいんです。私が勝手にやってるんですから」

そういいながらも二人仲良く、洗濯を終わらせようとしている。存在を忘れ去られた中村は苦い顔をしながらとぼとぼと井戸端へ戻っていく。
どうせ、いつものことで、頃合を見計らって総司が出てきたのだろう、ということもわかってる。
昼行灯に見える総司がセイに関して言えば、本人に対しては野暮天であっても、周囲に近づく男達には容赦がないことは知れ渡っていた。

人が減った井戸端で、顔を洗って口をすすいだ中村は、隊部屋に戻ると、稽古着に着替えた。

その間も、久しぶりに会ったセイのことが頭から離れない。

―― どうしたらいつも笑ってくれるだろう

いつも自分に向けられる顔はしかめっ面か、怒った顔ばかりで、総司に向けられるような花が綻んだような笑顔は向けられたことがない。

この片恋が叶う事はないとしても、せめてその笑顔だけでも見たいと思う。

「よっし!!」

一人気合を入れた中村は、十番隊の集まっている中庭へ向けて走り出した。

 

午後になって、雑用を片付けた後、洗濯物を取り入れながらぼーっとしていたセイの目の前に中村が現れた。

「神谷」
「なんだ。中村か」
「あのさ、これ、貰い物なんだけど、俺あんまり甘いもの食べないし、よかったら沖田先生と食べろよ」

なるべくセイの顔を見ないように早口で言った中村が、しゃがんでいたセイの膝の上にぽとん、と酒饅頭を二つ落とした。

隊内ではその酒の方が人気があったが、セイが酒を飲むと暴れることもよく知られているし、総司が甘党なのも有名だ。
セイが喜ぶことといえばこれしかない、と思った中村は朝のうちに限られた個数しか作られない酒饅頭を買いに、朝餉が終わってすぐ買い求めに行ったのだ。

ぽかん、とした顔のセイが、少し遅れて膝の上に落ちてきた酒饅頭をみると、再び中村へ視線が戻る。

「……なんで?」
「へっ?」
「お前だって、饅頭結構好きだろ?」

実は、中村も酒はあまり強いほうではない。それよりは饅頭のほうが好きだということをセイは言っているのだ。そんなことでもセイが知っていてくれたことが嬉しくて、中村はセイの目の前にしゃがみこんで目線を同じ高さにあわせた。

「俺、お前が喜んでくれた方が嬉しいもん」

照れくさそうに笑った中村に、セイがぽっと頬を染めた。その胸に抱えられていたのはほとんどが総司の物だったが、酒饅頭を手にしたセイは、よっと呟いて立ち上がった。
すたすたと踵を返して歩き出したセイを寂しそうに中村が見送っていると、少し離れてからセイが振り返った。

「これ、ありがとう」
「………!!」

ふわっと、いつも総司へ向けられていたのと同じ笑顔で中村へ笑いかけたセイに、我慢しきれずに中村が立ち上がり様に抱きつこうと迫った。
すかさずセイの下駄が蹴りと共に中村の顔に程よくめり込んだ。

「だからっ!!ひっついてくんじゃねぇよ!!」
「……この格差も含めてやっぱり大好きだ~!!」
「気色悪いっ!!!」

 

 

「珍しく寛大だな」

木の上から小さな声が落ちてきて、寄りかかった木の上を仰ぎ見た総司は微笑を浮かべた。

「だって、笑っていて欲しいと思う気持ちはわかりますから。……そういう斉藤さんはいいんですか?」
「……コドモのじゃれあいに割ってはいるほど野暮ではない」

大人二人が密かに語り合う限りでは、中村の想いは少しだけ伝わっているらしい。
夕日の中でにぎやかな声が隊士棟へ遠ざかっていった。

 

– 終わり –