大樹

〜はじめのつぶやき〜
登場率はこの人も少ないですよね。

BGM:松田聖子  いくつの夜明けを数えたら
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「あれ?近藤さんじゃないスか」
「おう。新八か」

里の帰りに、一人、ぶらぶらと町を歩いていた永倉の前に、同じように一人で歩いている武士がいる。

近藤勇。新撰組局長、その人である。

「一人なんすか?供も連れずに」
「うむ。家から屯所に向かうところなんだが、ちょっと寄り道してね」

にこにこと笑うその顔には全く危機感がない。

ため息をついた永倉はすぐに近藤の傍についた。

「勘弁してくださいよ。いくら近藤さんが強ぇっていったって、妾のところからの帰り道で襲われたとしたら、外聞も何もあったもんじゃねぇ」
「そんなトシみたいに大袈裟なこと言うなよ。こんな真昼間から襲われやしないさ」
「アンタが一人でうろうろしていたら、襲われねぇもんも襲われっちまうだろ!!」
「お前……、普通それは逆だろう?」

舌打ちして、近藤に文句を言った永倉に、どこまで行っても呑気な近藤が突っ込んだ。この大らかな気性を永倉はとても懐かしいと思った。

のんびり行こう、という近藤について永倉ものんびりを足を動かす。

「こんな風に近藤さんと一緒に歩くなんて、江戸に東下した時以来じゃないすかね」
「そうか。もう随分前の事みたいに思えるなぁ」

将軍の上洛を請うために江戸へ向かったのは、確かにもう随分前になる。建白書を出して近藤を切腹まで追い詰めようとした永倉を連れて、近藤は道中、たくさんの話をした。

女の話から、剣術の話、国についての話、土方や総司について。

同じ屯所にいても毎日顔を合わせるわけではない。ともすれば三日やそこいら、顔を合わせないこともある。

「な?新八。たまにはこうしてぶらぶらと歩くのもいいだろう?」
「なんすか?急に。俺はもともとぶらぶらしてましたけどね?」
「はは。お前とこうして歩けたじゃないか」

永倉は自分が懐かしいと思ったことと同じことを近藤が言い出したので、照れくさくなったのか、ひげ面を撫でながら咳払いをした。

たまにはこういう日も悪くないな、と。

思っていたその矢先。
永倉が案じたように、屯所間近の人通りの少ない寺社が立ち並ぶ辺りで、浪人者が数名二人を囲んだ。

「……だから言ったじゃねぇか」
「む。これは……トシにばれたらまずいよな?」
「あったりめぇだろ!!」

永倉はそう言うと、近藤より先に刀を抜いて走り出した。同じく走り寄ってきた相手を一人、鮮やかな一太刀で肘から上を斬り飛ばす。

永倉がつかうのは神道無念流。俗に力の剣とも言われる。力強い太刀筋に後ろから刀を抜いて永倉に背を向けた近藤が嬉しそうに言う。

「やっぱり、新八の剣はいいな!」
「馬っ鹿野郎、そんなこと言ってる場合かよ?!」

「エェーッ!!」

気合いの声と共に、後から迫ってきた者達を気前よく近藤が斬り捨てて行く。永倉がにやりと笑った。

 

この、傍にいるだけで、大きな木に寄りかかるような存在感。
この木の元に集まる者達が、大好きで、自分ははるばるここまでやってきた。

皆、この大きな木が枯れぬように、倒れぬように、いつまでもこの木の下に集うことができるようにと願っている。

 

「俺様がいるのに近藤さんにゃ、指一本でも触れさせるかよっ!!」

 

息を弾ませて永倉と近藤が互いに背を向けながら懐紙を取り出して刀を拭った。辺りからは、戦えなくなった者達のうめき声が聞こえる。

「怪我はねぇよな?近藤さん」

あったら俺が土方さんに殺されちまう、という永倉に、近藤はにこっと笑った。

「お前こそ怪我なんかないだろうな?」
「あるわけないだろ?」
「よかった~。お前が怪我してたら、歳に隠しておけなくなるからなっ」

あくまで土方には隠し通そうとする近藤に、呆れた顔をした永倉が首を振った。

「いいか?近藤さん。まず一つ。こいつらをこのままにしておくわけにはいかねぇ。こっからだと屯所に向かって行って誰かを寄越した方が早い。二つ目。あんたも俺も全く返り血を浴びてないわけじゃない」

察しのいい土方が、屯所に帰ってきた二人の姿に何も気がつかないわけがない。

「ぬぉおぉぉぉぉぉ」

頭を抱えた近藤に、その姿がまるで悪所通いを女房に咎められる亭主のような在り様に若干の同情を向けながらも、手早く斬り倒した男達を下げ緒や手拭できつく縛りあげる。

「ああっ?!」

背後で悲痛な叫び声をあげた近藤に永倉が振り返る。

「今度はなんだよ?」
「……これが……」

その手には、きれいな干菓子の入った小箱が返り血の飛沫を浴びて真っ赤な模様をつけていた。

「なんだそりゃ」
「“寄り道”だよ。これは総司が大好きで、神谷君が喜ぶんだよ」
「ちょっと待て。総司が大好きだと何で神谷が喜ぶんだ?」
「そりゃあ、あの二人が仲良しだからだろう?」

ますますもってげんなりした顔になった永倉が近藤の肩に手を置いた。

「いいか?近藤さん。今日は諦めて土方さんに怒られろ」
「新八~~~!!」

いささか情けないような叫び声をあげた近藤と共に、再び屯所に向けて永倉は歩き出す。隣を歩く大柄な男を横眼で見て笑った。

 

 

なあ、近藤さん。

いつでも俺はあんたのために死ねる。だから、アンタは重てぇかもしれねぇが、俺達を背負ってどこまででも生きてくれ。

なあ。俺達はそれだけの武士に惚れたと思ってるんだぜ。

 

 

– 終わり –