僕らの未来 8
〜はじめの一言〜
女性には色々難しいことも多いからね。素直に先生に甘えたらいいと思います。
BGM:嵐 One love
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「……神谷って、お酒強くなかったんだけど」
「久しぶりだから……」
面子で言えば、原田も総司も、藤堂も皆、酒はそこそこ強い。男でもあり、それなりに飲む場面も多いし、人並みよりは強い方だろう。
そして、家飲みだからと言って、気安く飲んではいたが、表で飲むほどは無茶な飲み方ではない、そんな程度に楽しんで飲んでいるうちに、気づけばすっかり酔っ払いになった理子がテーブルに肘をついたまま、次々と絡んでいた。
「きーいーてます?はららさんっ!」
「はいはい、聞いてるって。お前、少し水飲め。明日辛いぞ?」
「はっはーん、甘い!甘いなー。セイもそうですけどぉ。私もっ、二日酔いになったりして気持ち悪いっていうのないですよーだ。眠くなるだけだもん」
酒に強いということは、それだけ酔っ払いの相手をする機会も多いということで、理子がちょっとやそっと絡んでも誰もどうと言うことはないが、しいて言えば、総司が少し困った顔でいるくらいで。
水を持ってきてさりげなく理子のグラスを取り換えたが、すぐに気づかれてしまい、すっかり目が座ってきた理子に過保護だと文句を言われたばかりだ。
そこに、ぴんぽーんとチャイムの音がして最後の客である歳也が姿を見せた。
「遅くなって悪かったな。最後の客が話が長くてなかなか……」
「おーきたさんっ。……っそーーーーいっ」
「おわっ!?」
リビングに現れた歳也に向かって立ち上がった理子が、文句を言いかけてつんのめるように倒れこむ。慌てた歳也と総司が同時に手を伸ばして、床にばったり倒れこむところだけはかろうじてセーフで止まる。
「何するんですよぅ。私、ちょっとつまづいただけなのに」
明らかにそこには段差も何もなくてフラットなフローリングの上だというのに、言い訳をする理子を呆れた顔で眺めながら歳也がネクタイを緩めて部屋の隅にビジネスバックを置いた。
「おい。……いくら俺が遅かったっつっても、コレはなんだ?」
ふらふらとしながら総司の腕にぶら下がる様に掴まっている理子を指差す。
「これってなんですか、コレって!私、ものじゃない……す。もうっ。どーどーさん!沖田さんの、分の、ディナーもってきてっ」
「はいはい。わかりましたよ。お姫様。……ドードーって俺、鳥じゃないんだけどなー」
ぶつくさと零しながらも、片手を上げた藤堂がキッチンに立つと、理子が綺麗によけて置いた歳也の分のディナーを運んでくる。温かいものはこれからだすからといって、先に食べててと勧める。
「その前に、歳也さんにはビールですよね」
「あ、いや、あとでいい。今は茶、くれ」
おや、と総司と藤堂が顔を見合わせた。きちんと食事をとるときは、あまり酒を飲まない歳也だということを二人はよく知っているからだ。
そして、それは理子も同じで、嬉しそうに顔を綻ばせると歳也の隣にグラスを持って座った。
「ちゃんと食べて、くれるんですねー」
「お前がちゃんと作るから来いっつったんだろうが」
「そーだけどぉー。ほんとは皆と一緒にたべてほしかったけどぉ、そうなんですっ。なんか嬉しい」
総司が運んできた湯飲みに、自分のグラスを勝手に当てると、お疲れ様―と叫んで、再びグラスの酒を飲み干す。
甘いジュースのようなものだが、これだけ机の上に空き缶が並ぶほど飲めば確かに酔っぱらうだろう。
苦い顔をした歳也だったが、隣に理子がいることは、拒否するわけでもなくそのまま受け入れている。
「当たり前だ。馬鹿。お前がちゃんと作るって言ったんだろうが」
「今作ってるの俺なんだけど?」
キッチンからぼそりと藤堂が声を投げたがそれはあえて無視することにして、一人、今更のように前菜から食べ始めた。
「原田。お前、昨日ついたのか?」
「おお。正月明けまで日本だな。お前のところも泊まりに行ってやっていいぞ」
「ふざけんな。なんだ、その態度は」
今は対等にそんな口をきいているが、どこかで原田は今でも近藤や山南や、歳也のことを敬愛している。男同士だからこそ、構ったり構われたりという関係ではないが、一緒にただ黙っていていいから酒を酌み交わしたい。
その想いは確かにあった。
お、うまい、と呟きながら食べている歳也の隣で理子は次の缶を開けた。
「お前、まだ飲むのか?」
「いけません?」
「……まあ……たまにはいいか」
へへーっと笑った理子からグラスを取り上げた総司は、黙って炭酸ジュースに取り換えたグラスを置いた。
「で?お前、なんでそんなに酔っぱらってんだ」
「だぁって……、全然、飲む機会がなかったんですよぅ」
「家で飲めばいいだろうが」
着てすぐにこの部屋の状況を把握した歳也は、それまで楽しんでいるからだろうと放っておいた理子の頭に手を置いた。
ぽん、と一つ撫でた仕草で理子がぺたりと座った姿勢で、歳也に頭を付ける。
おや?という顔をした原田が、グラスを持ってテーブルの前を離れた。総司に向かってあれはいいのか?という意味でグラスの中指でテーブルの二人を指す。
「あれ?」
「歳也さんは、歳也さんだからねぇ」
キッチンからレアに焼いたステーキを運んできた藤堂は、歳也の前に皿を置いて、原田と総司がいるソファの方へ移動して腰を下ろした。
「神谷にとっては歳也さんは総司の次に特別なんじゃないの?ねぇ?」
「……私にはわかりませんけど、私にとっても歳也さんは特別ですけどね」
「でもさ。総司はやっぱり相手なんじゃん?だから、俺とか斉藤さんとか歳也さんは神谷にとってサブの立場だからさ、場合によっては言い易いんだよ」
日頃の様子を知らない原田に向かって藤堂が説明すると、なるほどねぇ、と総司の顔を見比べながら頷いた。
旦那の前でいくら歳也とはいえ、そんなに親密そうでいいのかと不安になったところだが、既知の事実らしい。
「……でも」
―― 本当は私も気になっていたので、歳也さんが聞きだしてくれるならそれもいいかもしれない
クリスマスの支度をする前から少し様子がおかしいなとは総司も思っていたのだ。聞こうにもタイミングなしにいきなりどうしたと聞いても理子は答えないだろうし、どうしたものかと思っていたからある意味、ちょうどいいともいえる。
しゃくには触るが、歳也と理子の様子を見守ることにして、水割りを作った。
「家で、飲むのもいいんですけど……。せんせーはあんまりおうちでは、お酒を飲まないので、気を使わせたくないから、なかなか機会もないし」
「そんなこと、あいつは気にしないだろ」
「気にしなくても私が気にするんですっ」
さもありなん、と思いながら、空になった皿を押し出して、ステーキに手を伸ばした。
– 続く –