会わない時間 2

〜はじめの一言〜
更新復活します。

BGM:
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膝の上に饅頭を山にした総司がぼーっと手にした饅頭の一つをからくり人形のように、ひたすらちぎっては口に運んでいた。
その光景に耐えられなくなった小川が横から熱い茶を差し入れる。

「あ、どうもすみません」

差し出された茶に普通に反応が返ってきたのでほっとしたのか、小さな盆を膝の上に置いた小川は総司の膝の上から饅頭を盆に取り上げた。

「沖田先生。こんなに一度に召し上がったら腹を壊しますよ?」
「そう……、ですかね。なんだか腹が空いているわけじゃないんですけど」

それはそうだろう。

朝も、起き抜けは機嫌よく、はきっとしていたはずなのだが、徐々に気が抜けたような姿になり、ぼんやりと箸を動かす総司は茶碗があくと気を使った隊士達が盛るためにいつの間にか朝から四杯も飯をお代わりしてしまっていた。
朝稽古の後、ぼーっと座っている間に落雁をひと箱空けてしまったというし、昼餉は当たり前のように平らげて、さらに今、饅頭である。

傍から見ていると、うまいとか、腹が空いている、とか食べたくて食べているわけではないようだ。単なる口寂しさを紛らわせるために食べ続けているらしい。

呆れかえった小川が盆の上に饅頭を積み上げながらわかりきった質問を口にした。

「どうなさったんですか?」
「うーん、なんだか落ち着かないんですよねぇ」

ぼーっとしている、というよりも抜け殻のような姿の総司が、返事だけは真顔で返してくる。
それはセイがいないからだろう、とはたで見ている者にはすぐわかることだが、当の本人には全くその意識がないらしい。
何をしていても、どこか落ち着かないから食べ続けているのだという。

「でも、先生。そんなことをしていたら腹を壊しますよ?」
「そうですよねぇ……」

―― でもやっぱり落ち着かないんです。何かが足りなくて……

そういうと、食べかけだった饅頭を置いてふらりと立ち上がった。話の途中だったはずなのに、小川のことをおいて総司は隊部屋を出て行ってしまった。

残されたのは山積みの饅頭と食べかけが一つ。

がりがりと頭を掻いた小川は食べ残した饅頭は懐紙にくるんで総司の荷物の上にそっと乗せておいた。山積みの饅頭と湯呑は賄いの小者へと預けると、考えることを放棄して、隊部屋の方へと戻っていった。

 

ふらふらと廊下を歩いていた総司は、自覚はしていないが、食べ過ぎによってますます腹のあたりが重く感じられた。気持ちが重いのか、腹が重いのか、よくわからないまま道場に向かう。
食べすぎだというなら腹が空くまで稽古をすればいいと単純に思ったのだ。

部屋の隅で稽古着に着替えた総司は木刀ではなく真剣を手にした。はずれた時間だけに、道場に人気もないため気を使う必要がない。

「はっ、はっ……、はっ」

短く、吐く息と共に気合の声ともつかない息を吐きながら次々と型を繰り出していく。不意に、ぴたりと総司の剣が動きを止めた。
気づけば防戦一方の動きばかりを繰り返している。

「何をしてるんでしょうね……」

ゆっくりと腕を下ろした総司は、ずっと目の前にちらついていた影を認めないわけにはいかなかった。

いつもなら自分の姿を、敵の姿を次々と思い浮かべて稽古に励むのだが、どうしても今日はそれができなかった。代わりに目の前にいたのは小さくて、すばしこくて、無心に突っ込んでくるセイの姿ばかりで、だからこそ幻影を相手にしているはずが防戦一方になってしまう。

「はぁ……」

荒い息を吐いた総司は刀を収めると、稽古着を犠牲にして汗を拭った。手拭いと着替えを手にすると夕方が近くなり、薄暗くなった表に出て行った。

 

 

寂しくて、早く雨が上がらないか、早くお馬が終わらないかと思って過ごした二日後の夕暮れ時、休暇から戻ったセイは、隊部屋に入る前から総司の姿を見つけていた。

「沖田先生」

隊部屋の前の廊下で、セイが戻るのを今かと待ち構えていた総司の顔にはセイがいなかった間のぼんやりした表情は全く見えなくて、まるでセイが休暇に出て行ったのがついさっきだったような雰囲気で。

「神谷さん。お帰りなさい」
「ただ今帰りました。休暇、ありがとうございました。これ、お土産のお団子です」

折りに包まれた団子を差し出すと、当たり前のように総司がそれを受け取ってふわりとセイの月代を撫でた。

―― お帰りなさい

温かさだけではないものが手のひらから伝わってくる。

にこりと笑うとセイに向かって、中を覗き込みながら悪戯を思いついた顔で囁いた。

「夕餉をいただいたら後で一緒に食べませんか?」
「はい。喜んで」

団子を渡した際に一瞬触れた指先を額にあてて、セイが隊部屋へと入っていく。
その場に立っていた総司は、ずっと抱えてきたセイの温もりがまだ残る団子を抱えて、ようやく足りなかったものが満たされた気がした。

会えない時間なんて、きっとほんの少しの間の夢のようなもので、すぐにまた忘れてしまうから。

荷物を置くために隊部屋の自分の行李の傍に立ったセイは、はたして大きな疑問に包まれることになる。隊部屋どころか屯所の中庭にまで響き渡る声で、頭の中に疑問符がたくさんになったセイが叫んだ。

「誰ー!?食べかけの饅頭を私の荷物に入れた人!」
また、新しいひと月が始まる。

 

 

– 終わり –