声と背中と指先と
〜はじめの一言〜
まんま曲に触発です。カタイかなぁ。。。もう少しや~らかくできんもんだろうか。
BGM:PSY・S Angel Night ~天使のいる場所
– + – + – + – + – + – + – + – + – + –
副長の使いで外出したセイに、総司が暇だからと言って一緒についてきてくれた。ついてきたといっても、二条城への文使いであれば、前を歩くことになるのは必然的に総司である。
文を渡す相手との対面や応対も結局、一番隊組長の総司が主として行い、セイのほうがお供のような有様になってしまった。
それでも、セイにとっては、総司のそういう姿を見ることが出来るのはとても幸せなことだった。普段の姿とは違う、きりりとした総司の姿を見ていると、その格好よさにやはり好きだと思ってしまう。
時々、見失いそうになるけれど、やはり、自分はこの人を想ってやまない。
最初に好きになったのは。
―――――― 娘さん しばらくそこへ屈んで目を閉じておいでなさい
他の誰でもない、あの声を好きになった。
目が眩み、かろうじて痛む体を引きずって、父と兄の姿を追った。そこには、声の主が鮮やかに振るう白刃。
それから背中。
―――――― 神谷さん!貴女は下がっていなさい
巡察の折に出くわす、思いがけない場面でも、私を背に庇って風のように駈け行く姿。
そして、時折、優しく癒してくれる手。
―――――― 本当に相変わらず泣き虫ですねぇ
童のように泣く私の涙をぬぐってくれる優しい指先。背中を撫ぜる大きな手。
不意に見せる、切ないような困った顔で黙り込んでしまう癖も。
全部。好きにならずにいられるだろうか。
貴方が下さるものはいつも私を守り、癒し、慈しむもの。
決して、私だけの人にはならない貴方は、ふざけて交わす言葉も一瞬で鬼に代わる表情もずっと謎めいて。
私を離さないで。
自分ひとりの胸の内から現実に戻ったセイは、すうっと大きく息を吸い込んだ。
「沖田先生!」
「はい?神谷さん?」
帰り道に前を歩くその後姿に、ばふっとセイが抱きついた。慌てて、それを引き離そうとする総司に、ふふっとセイが笑った。
「お使いも終わりましたね。早く帰りましょう!頂き物のすっごいお菓子があるんです」
「なんですよぅ、急に」
「亀末廣のお菓子ですけど?」
店の名を聞いて、えぇ!!と驚いた総司が、しがみついたセイを抱えるように振り返った。
御所や二条城へも納めている高級菓子舗である。一般人が気安く手に入る代物ではない。
「それは楽しみですねぇ」
急いで帰りましょうと言いながら、セイの手を握った総司は嬉しそうにゆっくりと歩き出した。あえて急ぐそぶりも見せずに歩き出した手につられて、セイも歩き出した。
繋がれた手が嬉しくて、頬を赤らめてしまう。そんなセイの様子をみて、くすっと笑った総司が振り返る。
「お菓子も楽しみですけど、こうして神谷さんと歩くのも大好きなので」
―― 急いだらもったいないじゃないですか
つないだ手をきゅっと引いた総司の笑顔にセイは思わず立ち止まってしまった。耳まで赤く染めながら、セイはぼそぼそと呟く。
若干、非難めいた視線を送ってしまうのは仕方がないことで。
「……先生、いつそんな技を覚えられたんです?副長じゃあるまいし」
「神谷さん専用対策ですからいーんです」
涼しい顔で切り返されたのが悔しくて、嬉しくて、繋がれた手をぎゅっと握り締めてから振りほどいた。
「……――っ」
セイが一歩前に踏み出して、ごくごく小さな声で何かを言った。
聞き取れなくて、総司がはい?と顔を寄せると、振り返ったセイが内緒話をするように片手を添えて、総司の耳元で囁いた。
―― 嬉しいです
一瞬、頬に触れた柔らかな感触に、大きな手をあてて、呆けている総司を置いて、真っ赤になった顔を見られないようにセイは踵を返した。
その姿に慌てて後を追った総司も負けず劣らず、顔を赤くしながら、追い付いた小さな手をつかんで歩き出す。
互いに視線を合わせないけれども、嬉しさと大好きという気持ちが手を通して伝わっていく。
ひどく長く、短く感じられた帰り道のこと。
– 終わり –