無礼講の夜 7

〜はじめの一言〜
まだ続きますよ?

BGM:
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「せっ、先生は、先生ですから!先生なんです!」
「……はい?」
「だっ、だからっ!」

ずいっと膳を脇に押しのけた総司が、ずずいっと前に進み出た。セイのお膳を挟んで、睨み合いになる。

「神谷さん」
「……はい」
「つまり……?」
「つ、つまり、ですね」

じりっと膳を挟んでいるのに、にじり寄ってくる総司の勢いに押されてセイがじりじりと後ろに手をついて後ずさり始める。とうに足を崩して胡坐をかいていたが、その足を延ばしてじりじりと後ろへと下がるとその分総司もじりっと近づいてくる。

「お、お強いです!」
「それだけですか。貴女にとって私は、強いだけの単なる上司だと」
「ち、ちがっ」

にじり寄った総司がずーんと顔を下げていたが、ゆっくりと顔をあげた。まるで膳の上に覆いかぶさるような姿勢でじっとりとセイを見る。次に何かセイが言ってくれるのを待っていた総司に、今度はセイのほうが反撃に出た。

「そ、そういうっ!先生はどうなんですか!?先生はっ」
「私?」
「そうですよ!先生は、何もおっしゃってくださってませんけど、どうせ私の事なんか、いつも面倒をかけてって思ってるんでしょう?!」

ぐっと身を起こしたセイが総司に向かって噛み付くと、酒に酔って真っ赤な顔をした総司が急に畳に手をついたまま今度は横を向いてもそもそと逃げ出した。身を起こしたセイが、ぺたんと畳に座り込んだままで総司の傍へとにじり寄る。

「そんなことは、別に……」
「何が別になんですか?!無礼講なんですよね?だったら沖田先生だって教えてくださいよ。どう思ってらっしゃるんですか?!」
「どうって……、神谷さんは神谷さんで……」

自分が責めていたはずなのに、セイと全く同じ返事をはじめた総司は、気まずそうにセイの前から離れはじめる。その総司を追って、セイが今度は四つに這いながら傍に近づいた。

「私がなんだっていうんです?」
「かっ、かみっ!駄目です!神谷さんが先に言うのが順番ですから!」

ぶるぶると頭を振った総司に向かって、セイがじとっと目を向けた。もう互いに酔っ払い過ぎて、思考能力がかなり落ちている。ただ、駄々っ子のような願望と、想いに揺れていた。

「神谷さんが、私の事なんか……。ただの上司ですし」
「そんなことないです!じゃあ、聞いても後悔しませんね!?」

だん、と総司の袴の端をセイの手が押さえた。ぎゅっと掴むと、手の中でその生地を何度も握りしめる。

「……じゃないですか」
「え?」

急に小さな声で呟いたセイの一言が聞き取れなくて、総司が問い返すと握りしめた手に視線を落としたセイがもう一度繰り返した。

「大好きに決まってるじゃないですか!先生がいなかったら、どうなってるかわからないくらい、先生しかいなくて、先生が大好きですよ!」
「!」

半べそをかいたセイが吐きだすように言うと、涙目で総司を見上げた。
その目を見た総司は、胸の内に隠していた塊を引きずり出してきて、目の前で叩き割られたような気がした。それは、秘めるべき想いを隠したもので。

総司の袴を握りしめていた手を総司が掴むとぐいっと引いた。セイの腰に手を回すと一息に引き寄せた。

「えっ?……せん……っ!!」

驚くセイの目の前に総司の顔が迫ってきて、セイの言葉を奪い去った。

「……わかりませんか?」

ゆっくりと離れた総司が声を落として囁く。ばっと総司の手を振り払って離れたセイが口元を押さえて真っ赤になる。後づ去るセイの袴を総司の手が押さえた。

「なっ、何をっ!」
「神谷さんが、教えろというからですよ。あなたのことを、どう思ってるんだって聞いたのはあなたでしょう?」

後ずさるセイに向かって総司がゆっくりと這い寄っていく。
その目の奥に見えるものにセイは本能で怯えた。揺らめく何かを見て、セイはぞくりと震えて、今までの酔いもどこかへ行ってしまった。

「沖田先生……っ」
「神谷さん。わかりますか」

そっとセイの頬に手を伸ばした総司がゆっくり近づいて、息がかかるほど間近で囁いた。怯えて、両手をぎゅっと胸の前に引き寄せていた手を取って、自分の胸へと触れさせた。とくん、とくん、と手に触れる総司の鼓動にただ目を丸くして身動きもとれないでいる。

「神谷さん……」

ふう、と耳元にかかった息に、セイがぎゅっと目を瞑った。

「……」
「…………?」

身構えたセイは、そこから何も起きないことで恐る恐る目をあけた。セイの顔のすぐ横に頭をついた総司は、セイがそっと横を向くと目を閉じて頭を支えにしてピクリとも動かなかった。

「……先生?」
「……ぐー……」
「?!」

―― まさか寝てる?!

驚いたセイがもっと大きく横を向くと、顔半分を畳に押し付けるようにしてぐぐぐといびきをかいている。

「……えぇぇ~……」

ため息のようにつぶやいたセイは、総司の体の下から何とか抜け出そうとしてもがいたが、どっぷりと泥酔した総司の体が重くて、酒の抜けきらないセイも押しのけるだけの力はない。酒で火照った体の下に埋もれてセイは、はぁ、とため息をついた。

そうっと総司の背中に腕を回すと、自分よりもはるかに厚い胸板と、ついうっかり抱きついた時とは違って、まるでセイを抱きしめるような格好で眠っている総司に目を瞑った。
総司を腕に抱えることなどほとんどない。

「まあ……いいかぁ」

ぽつりとつぶやいたセイは、そのまま総司の体を抱きしめて再びため息をついた。

 

– 続く –