阿修羅の手 13

〜はじめのつぶやき〜
やっぱり、おとなしいセイちゃんも大人すぎる先生もないですなぁ。

BGM:嵐 Happiness
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上七軒に向かった一行は、町役の家や香具師の元締め達の家を中心に少しずつ集まりだしていた。花街だけに、隊士達が多くなってもそれほど目をひくものではない。

そのうちの一軒を固めるために斉藤達の三番隊は両脇の揚屋を貸切にして、その奥の家にも人数を割り当てた。

「……遅い」
「すみません。斉藤さん。少し遅れました」
「だから、遅いと言ってる!……うちの隊はもうすでに配置についた」

相田が心得顔で少し前から離れている。しばらくして目的の店の入り口の前に立つと、総司を振り返って頷いた。

「うちも準備できたみたいです」
「……」

眉間に皺を寄せた斉藤は、総司の隣に立っているセイを見て、ますます苦虫を噛みつぶしたような顔になる。その顔を見ながら小さく笑みを漏らした総司は懐から襷を取り出した。器用にくるくると掛けまわす総司に、横に立ったセイが、ふう、と総司の袖を小さく引く。

「それで?」
「それで、って……」
「私にどうしろと?」

もはやわかっている問いかけをしているような気もしたが、肩を竦めたセイにあはは、とわざとらしく総司が頭をかいた。

「向こうに」
「はいはい。後ろで待機した後、先生方の方へ向かわせていただきます」

軽く頭を下げたセイは、斉藤と総司の傍を離れると一番隊が控えているらしい真向いの店に入っていく。セイが離れてから斉藤がどうしても我慢できずに口を開いた。

「まさかつれてくるとはな」
「一番いいでしょう?」

何を言っても今更だ。斉藤はちっと舌打ちを一つ残してすたすたと店の方へと歩き出した。そのあとを追いかけて総司も歩き出す。

 

 

向かいの店に顔を出したセイは、女将に挨拶をして玄関を上がってすぐのところに控えている一番隊の隊士達に軽く手を挙げた。

「おっ!」
「神谷」

三人ほど控えていた一番隊隊士の中で、一人は立石でセイの顔を見た途端、ぶすっとむくれて顔を逸らしてしまったが、ほかの二人はセイに向かって足を踏み出した。

「こちらで控えるように言われてきました。後程皆さんと一緒に合流します」
「承知した。珍しいなあ。お前が参加するなんて」
「そうですね。私もこれ、試したかったのでちょうどよかったです」

くるっと半身をひねると背中に背負った不思議なものを見せた。相田と同じように怪訝そうな目で見られたものの、今は待機の時間だ。
入り口ののれんの隙間から向かいを伺うと、斉藤と総司が中に入ったところだった。

静かなやり取りの後、大きな怒声が聞こえて建屋が揺れるほどの人が動き回る様子が伝わってくる。

「小川さん!」

向かい側の状態を見て、待機と言われたにもかかわらず立石が鯉口を切って構えていた。小川と 石井が傍についたのは明らかに立石を見張るためだ。入隊したての隊士は往々にして、手柄を立てたいがために先走って大怪我をしたり、敵を逃がしたりしかねないためだ。

柄に手をかけた立石の手に小川がぽん、と片手を置いた。

「立石。お前何する気だ」
「小川さん、行かなくていいんですか?!組長達、今踏み込んでいったじゃないですか!」
「俺達の仕事は」

興奮した立石がいきり立っているところに小川がぴしゃりとやろうと話している最中にセイがすっと動いた。入り口の反対側へ回ったセイが向かいの様子を伺う。左手をふっと顔のあたりまで上げたセイがちらりと小川を伺うとひらひらと二度ほど手を振る。

それを見た小川がセイと対称の位置に立ち、同じように向こうを伺う。立石が露骨に嫌そうな顔をしたがそれを石井がぐいっと腕を引いて後ろに下がらせた。

ふわりと腕を上げた小川も何かを感じたのか、指を一本立ててみせる。

よほど人数が多いのか、店の妓達がいるからなのか、ばたばたした空気が伝わってきて、小川が腰に手を回す。

「立石。俺たちの仕事は待機だ。ここにいるのは店の正面から逃げてくる奴がいた場合、それを押さえることにある」
「は、はいっ!」
「来るぞ」

逃げ出してくる敵の存在を察した小川は石井に立石の補佐を頼んでおいて、向かいの店先から飛び出してくる頃合いを図った。

「くそう!!」

一人、かと思ったらもう一人飛び出してきて、まずい、と小川が後ろを振り返る。小川一人では追跡と捕縛には荷が重い。そう思った瞬間、セイが刀に手をかけた。

「石井さん、立石さんとお願いします!小川さん。手伝います!」

走り出てきた不逞浪士の目の前に同じように走り出た小川とセイは、互いに逃げ出した二人と対峙することになる。

「どけぇ!」
「甘い!」

呼吸するよりも早く、慣れた気配と自分達の体が動くのは長い間、総司の下で、共に戦ってきた経験がものをいう。女武芸者の恰好をしてきたセイは、やはり正解だったと自分でも思いながら腰を低くして、相手の胴を思い切り峰で打った。

「がふっ」

もう一人は小川が手首から先を切り飛ばす。刀を握ったままの手がセイ達が隠れていた店先まで飛んで、遅れて飛び出した立石の足元に落ちる。

「うわわわっ!」
「立石!手拭い!捕縛縄も!」

すっかり腰を抜かしてしまった立石に石井が怒鳴りつける。店の中の怒声も終盤に差し掛かったように見えた。セイは小川に捕縛を任せて、店の様子を伺う。

あたりの店からも心配そうな顔でちらちらと顔を見せている妓達や店の者たちがいるが、セイは少しの間、ひーふーと数を数えていた。小川が腕を切り飛ばした男はすでに傷口を縛って止血してある。

「小川さん」
「おう。もういいんじゃねぇか?」
「ですよね。じゃあ」

―― 後はよろしくお願いします

そういうと、ひらりと店の中へと姿を消した。

– 続く –