天にあらば 11

〜はじめのつぶやき〜
宮様の設定は途中で変更になっています。 すみません。初めからお読みくださった方々、一部書き換えを行ってます。

BGM:
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「……」

まるで土方が乗り移ったような渋面で、まるで斎藤が取りついたような無言を通している。
それもそのはずで。

んちゅっ。

輿に乗りこんでからすぐ、セイは宮に挨拶をした。舐めまわすような宮の視線に耐えながら、頭を下げた。輿は四人乗りとはいえ、女官が四人ならばゆっ たり座ることができるかもしれないが、くつろぐ宮とその隣にべったりと寄り添った雲居の二人になるべく近くには寄らないように努めているとどうにも困る。

「おお。かわゆいのぅ」

雲居は元々、奔放な性格らしい。セイの前だというのに全く抵抗なく宮と口付けを交わし、その首筋にべったりと吸いついていたかと思えば、相手が妊婦だろうがお構いなしに手を差し伸べている方も方だろうか。

着物の隙間から手を差し入れた宮が、もったりと重さをたたえた雲居の胸を弄っている。

「……」
「あぁ、宮様」
「なんと可愛らしい。そう思わんか?」

こんな状況で振られても応じられるほど、練れてはいない。まして男であれば可愛いと思うだろうが、今のセイは女としての感覚も理解している。
素直にそうですね、と言わるわけがない。

「そうか、男の姿をしていてもそなたは女子だったな。そなたも連れ合いとこうしておるのだろう?」
「……」
「なに、恥ずかしいことはない。男と女では当然のことではないか。のう、雲居」
「あっ……、は……ぁ、宮様。神谷、は……お子は」
「おお、お主、まだ子がおらぬのか?」

喘ぎ始めた雲居を前に、呑気な問いかけである。セイはひたすら目を閉じて、瞑目した。反応を見せないセイに怒ることもなく二人の世界を繰り広げていた。

伏見に辿りついたところで休憩を挟むことになった。

 

セイが苦行の時間を過ごしている間に、土方達は、輿の周りにいた。彼等は従者と警護のための者達とは別に自由行動が認められている。

警護の者達は、彼等三人の動きがよく分からずに、不審の目を向けていたが、今回はどうにも人数が少ない。通常、数十人単位と言っていいくらいでの旅になるはずが“私用”のために人数が絞られている。

侍女は、宮と雲居にそれぞれ三名と二名、従者に二名、警護の者が六名。たったこれだけの人数である。

周囲を警戒しながら輿のまわりを警護していた土方達は、当然、輿の中の様子にも気づいていた。

土方は平然としており、斎藤も内心では呆れながらも平然としている。内心、穏やかではないのが総司である。

―― 何をなさっているのやら。ずいぶん、奔放な方ですねぇ

呆れるよりも何よりもただ、ひたすらムカつく。隊士時代は近藤の寝室の様子を窺ったり、土方の遊びの供につきあわされたりとしていたが、こんな狭いところで目の前にするということはなかった。

全身からふざけるな、という気持ちが吹きだしていて、傍にいる土方と斎藤は輿の中よりも総司の方に気を取られていた。

「……」

こちらもまた無言。

だが、まさか初めからセイが目をつけられていたなどと聞けば、何をおいてもセイを戻そうとするだろう。それは流石にまずい。

「……総司」

ひりひりするような気配は、出発前の夫婦喧嘩も後を引いているようだ。
ただ、土方が発した一言の警告で一応はその苛立ちがどうにか抑えられたらしい。

しばらくして、伏見に辿りついた一行は休憩に入る。

 

輿を降りたセイは、精神的には疲労していたが、緊張感は高まっていた。

休憩所になった寺の僧坊へと宮と雲居が入って行くと、それに付き従った侍女たちがその後に続き、セイがその後にため息をつきながら続く。

警護の者達と従者達は外と入口付近の僧坊へと案内されていくが、土方達は彼等とは別行動をとった。

「はぁ……。頼むからお前、よけいなところでキレるなよ?」

周囲の警戒を行いながら三人だけになったところで土方が総司に向かって釘を刺した。

「……分かってますよ。いくら私でもそのくらいは」
「分かってなさそうだから言ってんだろ」

肩をすくめた総司が反論しようとしたその前に、斎藤がぼそりと呟いた。

「不穏、ですな」

腕を組んで、周囲に目を配っている斎藤がぼそりと呟いた。何かの気配を感じたのかと土方が斎藤の顔を見るが、眉間に皺を寄せたまま、それ以上何も言わない。

総司と土方が顔を見合わせた所に、宮に仕えている侍女が呼びに現れた。

「あの、新撰組の方々を宮様がお呼びになっております」
「分かりました」

土方が代表して向かおうとすると、侍女が困った顔でそれを止めた。

「何か?」

にっこりと微笑む土方は、完全に外向けの顔になっており、この旅では土方もとにかく宮家の者達を味方につけるしかないと思っていた。

「申し訳ございません。皆様方をお呼びになっておりますので」

三人で来いということらしく、土方はありがとうございます、と満面の笑みを浮かべると総司と斎藤に視線を向けた。二人とも何も言わずに頷いて土方に続く。頬を赤らめた侍女が案内する僧坊へと向かった。

 

「失礼いたします。皆様方をお連れいたしました」

案内の侍女が僧坊の一間へと入ると、上座に宮様が、その隣に雲居が、そして部屋の入口に近いところにセイが座っていた。

 

 

– 続く –