僕らの未来 4

〜はじめの一言〜
間が空き癖がついてしまいましたねぇ。すいません
BGM:嵐 One love
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「久しぶりだなー、総司」
「原田さんも元気そうで何よりです。この部屋、使ってくださいね」
「悪いな。世話になるぜ」

近くの駅まで到着したという連絡をもらって迎えに行った総司が原田を連れて戻ってきた。玄関を入ってすぐの部屋を案内しているところに奥から理子が走り出てきた。

「原田さん!」
「おう、神谷……じゃねぇ、つい出ちまうなー」
「神谷でいいですよ。おかえりなさい!洗濯物とかあったら出してくださいね」

いつになくはしゃいでいる理子の出迎えに原田も嬉しそうに頷く。荷物を置いてからと部屋に一度、大きなバックを二つほど置くと、リビングに移動した。

「いや、東京はあったかいなー。今年はこれでも寒い方だって?」
「今日は寒いですよ?コーヒーとお茶と何がいいですか?もうお酒飲みます?」

パーティの予定だったので、ピアノは壁際に寄せてある。それでもグランドピアノだけにだいぶ場所をとってはいるがそれでもリビングはだいぶ広くなっていた。
中央にテーブルを用意していて、床暖をいれているだけでも部屋は温まっていた。

「そりゃ、飲みてぇっていうところだが、さすがにそりゃ、早いだろ?お茶かな」
「飲み始めてもいいですよー。総司さんも待ってたようなもんですもんね」

直に床の上に胡坐をかいた原田は、きょろきょろと部屋の中を見回していた。

「待ってくださいよ。理子、それじゃ私がお酒大好きみたいじゃないですか」

原田と向かい合った総司が苦笑いを浮かべる。病後、1年目までは禁酒していたが、その後は少しずつ飲み始めたことは確かである。だが、以前とはちがって、何かパーティや打ち上げなどでなければすっかり弱くなったこともあって、控えめにしてはいた。

「大好きかどうかはさておきですけど、総司さんも飲む機会ができるって思ってたでしょう?」
「そりゃまあ……」
「ふふ。でしょう?でも駄目ですよ。原田さんがお茶って言ったからお茶です。お酒は夕飯まで待ってくださいね」

湯は沸かしてあったので、急須と湯飲みを温めると日本茶を入れて二人の前に運ぶ。
一緒に腰を下ろした理子と総司を見比べた原田は、改めて久しぶりだと言った。

「お前らの結婚式以来か?」
「そんな……ですか。ずっと帰国してなかったんですか?」
「いんや、ちょいちょい戻ってきてたし、あ。いっぺん、近藤さんとも飲んだぞ」

ひーふー、と指を折っていた原田が天井を仰ぐと、渋い顔で総司がぼやく。いくら仕事だとはいえ、そんなに帰国していなかったわけではなく、帰ってきていて近藤と飲んでいたと聞けば、その時に声をかけてくれればいいのにと思う。

「原田さん、そう言うときにですね……」
「面倒くせぇんだよ。誰に声をかけてとかさ。気が向いた時に声をかけるだけでいいじゃねぇか」
「冷たいなー」

小脇に持ってきていた小さなカバンを引き寄せると、くしゃくしゃの紙に包まれたものを取り出した。

「総司。これ」
「なんです?」

かさ、と開くとごつごつした石がコロコロとでてきた。手にしてくるっとその石をまじまじと眺める。
手を伸ばした原田が一つ一つを指差した。

「これがアメジストの原石だな。まあ、よくありがちだろ。それから、これがフローライト。それからこれがラリマー」
「これ、すごいきれいですね。ラリマーっていうんですか?」

横から見ていた理子が手を伸ばす。ミルクホワイトの深い緑ともいえるような模様が引き込まれるようだ。

「どれでも好きなように加工してやれ。わるいもんじゃないから、磨けばきれいな石のはずだ」
「え……」
「俺はよくわからんからな。指輪でもなんでもお前が神谷に似合うやつにすればいい。これが、今回の土産な」

原田の土産に総司と理子が顔を見合わせた。
土産など思ってもみなかったために、なんといっていいかわからない。原田は胡坐をかいた足を抱えて照れくさそうに笑った。

「お前らの結婚祝いに俺は何もしてなかったからな。一緒になっても、俺達の場合は、もっと深いところで繋がってる。無理せず、お前ららしくな」

照れくさそううに笑うと、さあ、真面目な話は俺には似合わねぇと言ってぐいっと日本茶を飲み干した。

「じゃ、そろそろ飲むか」

くいっと手を動かした原田に、ぷっと理子が呆れた顔で笑った。後でな、と言ってからいくらもたってないのに、もう飲む気満々である。

「もう仕方ないなぁ。総司さん、適当に自制してくださいね?」

テーブルの湯飲みを片付けると、代わりに理子は冷えたグラスに500のビールの缶を持ってくる。原田と総司のそれぞれにビールをついで、自分は付き合い程度のほとんどが泡なグラスを手にする。

「じゃあ、久しぶりの原田さんにお礼の意味も込めて、乾杯」
「乾杯。今度はもっと頻繁に帰ってきてくださいね」
「おう。まかせとけ」

三つのグラスがぶつかって、軽く響く音がする。
一口だけ口を付けた後、理子はキッチンに向かうと、次々と作り置きしていた品々を運び始めた。

「うぉ!すげぇ!すげぇな、神谷。お前総司に料理は負けてらんねーって練習したんだって?」
「違いますよ!誰ですか、そんな嘘ばっかりつく人!」

そんな話をどうして原田が知っているのかを問い詰めてやろうかと思いかけて、それも無駄かなと思う。ぱちん、と箸置きに箸をおいて、恨めしそうに原田を睨む。

「沖田さんか藤堂さんでしょ。もう、ろくでもないことしか言わないんだから。藤堂さんがお店で出してたのがおいしそうだったからたまたまこの前、そんな話に」
「俺が聞いたのは近藤さんだけど?」
「えっ!!」

意外な人の名前がでてきて、理子は一気に真っ赤になった。近藤には時折近況を知らせると同時にライブがあればチケットを贈る。だが、近藤も山南も、 今の理子からすると、昔とはちがって、散々みっともないところを見られてきたわけで、これ以上子供っぽいところなど見られたくない相手なのだ。

恥ずかしい、と顔を押さえた理子を総司が腕を引いた。

「神谷さんも近藤さんには認めて欲しがってましたよね。なんかちょっと悔しいな」
「馬鹿なこと言わないでください。あー、やだやだ」

キッチンに逃げ出した理子をぶすっとした顔で見送った総司を見ていた原田は、にやにやと面白がっている。飲めよ、とビールの缶を持ち上げた原田が総司のグラスに注いだ。

「お前、ほんとにそういうとこは昔とかわんねぇなぁ。神谷に関すると昔もすぐ機嫌悪くなったよな」
「ほっといてください。今の方が素直です!」
「そう思ってるのはお前だけだって。昔もなぁ」

原田にからかわれた総司は、むすっとむくれた顔をしていたが、自覚がないまま眉間に皺を寄せていることがそのままだというのは見ている原田にしかわからない。

―― そういうお前だからなんだけどな

理子が変わらず、総司を求めたことはかつてのその人を宿しているからだけではないのだ。

「お前ら、ほんとに馬鹿だよなぁ」

なんでですか、と二人そろった反発に原田が声を上げて笑い出した。

 

– 続く –