僕らの未来 5

〜はじめの一言〜
書いてます。
BGM:嵐 One love
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散々飲み明かして、総司と原田はそのままリビングで潰れてしまった。

さすがに男二人は運ぶに運べない。諦めた理子は、テーブルの上を困らないように片付けて、毛布を持ってくるとそれぞれにかける。部屋が温まっているから大丈夫だろうと思って、そのまま電気を消すと、ベッドルームに移動する。

付き合ってかなり理子も飲んでいたので、すぐにベッドに潜り込むとあっという間に眠ってしまった。

夢の中では、懐かしい場所を走り回っている。総司や原田たちの後をセイが追いかけていく夢をみた。
いつまでも続くと思っていた。

今も幸せだと呟いているのに、どこか不安で。

―― 先生……。怖いって言ったらおかしいですか……?

何が怖いんだろう。それもわからないまま、酒の力を借りて、理子は深く眠りに落ちて行った。

 

 

 

携帯のアラームを聞いて、枕元に手を伸ばした理子は眉間に皺を寄せて目を覚ました。携帯を止めて、ベッドから起き出すと、一応鏡を見てからそっと隣のリビングを覗き込んだ。

「……んがー……」

原田も総司もいびきをかいてまだ眠りこんでいた。部屋にこもった酒の匂いにくらっとしながら、そうっとリビングを抜けてバスルームに向かう。洗面所に鍵をかけて、シャワーを浴びた理子は、ざっと髪を乾かすと、軽く髪を束ねてリビングに戻った。

「お酒くさっ……」

あまりにひどいなと思って、キッチンの換気扇を回す。
昨夜はこぼしたりしない程度にしか片付けていなかったテーブルの上から乾き物や残りの皿を片付けて、湯を沸かす。ちらりと時計を見ると、お昼に皆が来ることを考えれば逆算して、朝ご飯は抜きにするとしても、二人にはせめて風呂くらいは入ってほしい。

湯が沸く音がし始めて、ゆっくりとドリップしたコーヒーを入れると、、理子は大きくリビングの窓を開けた。

さぁっと部屋の中の空気が表の冷気と入れ替わる。

「……何、寒っ……」
「えっ?わっ?」

総司と原田が揃って飛び起きる。ざーっと流れていく車の音や、街の音がすぐそばで聞こえたのも驚いた理由だった。

「はい。お二人とも目を覚ましてください!シャワー浴びて、お酒を抜いてきて」
「あ、はいっ」

条件反射で答えた総司にぼうっとしていた原田が、白々とした視線を向ける。

「……習性かよ」
「なにか?」
「いや……。お前先に風呂行って来いよ。俺、一服するわ」

じゃあ、灰皿を、と総司から受け取ると、リビングに持ってきていた小さなカバンから煙草を取り出してベランダに出る。部屋に匂いが入らないようにガラスを閉めた原田をおいて、理子は二人の毛布を片付ける。

「すみません……。すっかり眠っちゃって……」
「はいはい。いいからシャワー浴びて目を覚ましてくださいな」

まだ酔いの抜けない総司が言われるままに洗面所に向かう。毛布をしまった理子は部屋に掃除機をかけて、お客を迎える支度にかかった。

部屋の空気が入れ替わって落ち着いたところで、テーブルを整えて、二人のためにカフェオレを入れる。

「……早いなー。もう部屋片付けたんだな」
「原田さん、風邪ひきますよ。一服って長いですよ」
「目覚ましだよ、目覚まし。この後シャワーするしな」

テーブルに置かれたカフェオレに手を伸ばした原田は、カフェエプロンをしめた理子を見上げた。

「お前さぁ……」
「はい。なんです?」
「なんか、神谷みてぇ……」
「はい?神谷は旧姓ですけど何か」

そーじゃなくて、と呟いている間に総司が着替えを済ませて戻ってきた。さすがに原田のためには湯を張ってきた。

「少し温まって、お酒を抜いてください。どうせ沖田さんが来たらまた飲まされますよ」
「うぉ、そうか。あの人は相変わらず容赦ねぇからなぁ」

頭を掻きながら総司と入れ替わりにリビングから原田が出て行くと、総司は少し温くなったカフェオレに手を伸ばした。

「あ、温かいの、入れなおしましょうか?」
「いいです、いいです。これで。また今夜も飲まされるかと思うと、少し抜いておきたいですしね。何か支度で手伝うものありますか?」

キッチンに立っていた理子は、すでに作っておいた具材でサンドイッチを作っていた。サラダは昨日のうちに作ってある。
そのほか、前菜代わりの料理は冷蔵庫に詰まっていて、びっちりになっていた。

「んー、じゃあ、生クリームを泡立ててもらえますか?これからデコレーションして、冷蔵庫に入れておくと、しっとりして食べるときにはちょうどよくなるし」
「お安いご用ですよ。ええと……って、理子」
「はい?」
「うちの冷蔵庫がこんな風にミチミチになっているのをはじめてみましたよ」

冷蔵庫を開けてあんぐりしている総司に、気まずそうな顔をした理子はぶつぶつと言い訳を並べる。

「だって……。今日はこんな人数が集まるなんてなかったし、長時間だし、パーティらしくしたいじゃないですか……」
「いや、いいんですけどね?テーブルに乗るかなぁ?」
「えっ?向こうからテーブル持ってくるんですよね?」
「あ、そうでした」

まだ少し寝ぼけ気味な総司に、慌てた理子は恨めしそうな顔で睨んでから、総司を押しのけて生クリームを取り出した。

総司が生クリームを泡立てている間にも一人、テーブルを運び、紙ナプキンを用意して、グラスと割り箸を並べる。銘々皿とアルコールのボトルを並べて、部屋のあちこちにクッションを置く。

「先生、そろそろ皆さん来ちゃいますよ」
「そんな焦らなくても大丈夫ですよ。皆知り合いなんですから」

総司が呑気に応えていると、ぴんぽーんとチャイムが鳴った。慌てて、壁のインターフォンに出た理子が応対する。一番手は、意外にも藤堂だった。

「おーっす。手伝いにきたよーん」
「藤堂さん。いらっしゃい!」
「神谷、大変だろうと思って手伝いに来た!あれ?原田さんは?」

勝手知ったると、入ってきた藤堂の後ろから原田が頭を拭きながら姿を見せた。

「おう。ここだ」
「うわっ、何それ。いきなり風呂上りで登場ってないでしょ」
「さっき起きたんだよ。しょーがないだろ」

リビングに一人増えただけで全然違う。暖房も入れていないのに、部屋の温度が上がった気がした。

 

 

– 続く –