明日、空が晴れたら 3

〜はじめの一言〜
弱ってる土方さんっていいですねぇ
BGM:DISCOTHQUE 水樹奈々
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ひやりとした手が額を撫でた気がした。

―― ああ。冷たくて気持ちいいな

「起きてください」
「なんだ。……何だお前」
「何だじゃありません。起こせって言ったんじゃないんですか?」

額に触れる冷たくて細い手を、夢と現実の間でぐいっと引き寄せた。

「ちょっ……!」

ぐらっと熱の下がらない歳也のベッドに倒れ込みそうになる。汗と男臭いベッドだと思った瞬間、片腕が倒れ込んだ理子を抱きとめた。

「危ない」

ぼそっという一言と共に総司が背後に立っていた。理子を抱き起すと、普通に部屋から去っていく総司の背中に向かって歳也と理子が同じ一言を放った。

「「危ないって、どんな!」」

ベッドに手をついた理子がぱっと手を離すと、むっとした顔で目を覚ました歳也を睨んだ。

「何するんですか。もう。熱を出して倒れ込んでるし、それでも起こせっていうから起こしただけなのに」
「……本物だと思わなかったんだよ」

寝起きなだけにうっかり本音を漏らした歳也に、えっと驚いた顔を向けた理子の元へ、すたすたと総司がやってくると、その手を握って隣の部屋へと引っ張っていく。

「危ない」

表情は変わらないのに、その手だけは怒っているようでもあり、拗ねているようでもある。
少しだけぎこちなかったのに、なんだかおかしくてくすっと理子が笑った。

ベッドの中の歳也は、しばらくしてから自分が余計なことを口走ったと思う。失敗したなと思いながらのっそりとベッドから這いだした。

隣の部屋を抜けてバスルームに向かいながら、二人の顔を見ない様に通り過ぎる。

「なんでお前ら当たり前にうちにいるんだよ……」
「覚えてないんですか?」

即、切り返した総司の言葉を無視して歳也はシャワーを浴びに向かった。

「あのまま仕事に行くの、止めないんですか?」
「大人ですから」
「……大人なのに、こうして面倒見に来てるのに?」

まだ熱が高そうだったのに、止めなければそのまま仕事に行くだろう。歳也なら。
それを止めないのかと言った理子に都合よく黙った総司は、テーブルを指で叩いた。

ずるいなぁ、と思いながら理子はキッチンに立った。途中の24時間スーパーで買いこんできたあれこれを片付ける。レトルトのご飯のパックやインスタントの茶漬けを棚にしまうと、今朝の分として、家で作ってきた物をタッパーから器にあけて温める。

それを総司が受け取って、テーブルに並べ終えるとそこに歳也がタオルを頭からかぶって戻ってきた。

「何も、お前ら揃ってくることはないだろうが」

シャワーを浴びたことで正気に戻った歳也が青白い顔で着替えてくる。ジャージ姿から寝室に一度、入った歳也が手早くシャツとスーツのパンツを身に着けて戻った。何かを口にと思うより先に、テーブルに並べられた朝食が目に入って、誘われる前にテーブルに腰を下ろす。

「歳也さん、お薬飲んでるんですか?」
「飲んでる。もう治った」
「だってまだ熱が下がってないのに」

心配した理子に向かって舌打ちした歳也は、片手をあげた。スープに手を伸ばし、口に運び始めるとしゃべりながらというわけにはいかない。程よい熱さの具だくさんスープを食べ終えると何でもない事のように言った。

「うるせぇ。さっさと帰れ」

むっとした理子に何か言うより、総司に向かって追い払うように手を振った。

「なんでそういうコト言うんですか!」
「いいから。理子、行きましょう。じゃあ、歳也さん。無理しないでくださいね」

そういうと納得いかずに部屋に残ろうとする理子の手を引っ張って総司は部屋を出た。

「先生!いいんですか?」
「歳也さんだって大人なんですから大丈夫ですよ」
「先生の嘘つき。大丈夫だったらわざわざ買い物までして来ないでしょ?」

マンションの一階まで降りたところで食い下がった理子の肩をとん、と押し出した。

「貴女も仕事でしょ?早くいかないと間に合いませんよ」
「先生!」
「私もそろそろ行かないと間に合わないので」

いつもなら駅までは必ず一緒に行くのに、理子を置いてさっさと歩いて行ってしまった。歳也も総司も、相変わらず彼らの間柄はよくわからない時がある。

―― 仲がいいっていうのかなんていうか……

不満ではあったが、総司が行ってしまった後を追うように理子は駅に向かった。

 

 

 

熱をおして仕事に向かった歳也は早めに仕事を切り上げて藤堂の店に顔を出した。

「なんか今日の歳也さん、顔色悪くない?」
「気のせいだろ」

あっさりといなした歳也は迷わずに酒を頼んだ。
口をへの字にした藤堂はすぐに奥に入ると、ホット用のグラスを持ってくる。耐熱のグラスに緑茶を注いだ藤堂は、コースターの上に湯気の立ったグラスを置いた。

「俺は酒を」
「それ、飲んだらね。歳也さん、無理するのは変わんないからさ」

藤堂の真似をして口元をへの字にした歳也はしぶしぶ、熱い茶をすすった。本当ならさっさと家に帰って寝るべきなのだろうが、それをわざわざここに足を運んだのにはわけがある。

「話がある」
「俺?珍っしい。なんなのさ」
「珍しくねぇ」

いいから、顔を貸せといって藤堂を近くまで呼び寄せると、だるい頭を軽く振って口を開いた。

 

– 続く –