ホワイト・デイ 2 ~現代拍手文

〜はじめの一言〜
ジャズテイストの楽曲でお楽しみください。
BGM:My love
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「俺が一番手か?」

店に現れた歳也は、店内を見渡して、カウンターにいた藤堂の目の前に座った。

「確かにまだだけどさ。今日はテーブルにどうぞ」
「奴らが来るまではいいだろ」
「あとで移動するのが面倒になるでしょ」

飲み始めると、すぐに面倒だと言い出す歳也を今のうちに奥のテーブル席に案内する。いつもは食事をとってから現れることが多いから黙っていても水割りを出すのだが、今日はグラスにビールを運ぶ。

「?」
「まだすきっ腹でしょ?」
「別に構わんだろうが……」

小さく笑みを浮かべて藤堂は律儀にもダメだよ、といった。

「酒飲みなら酒飲みらしく、だよ。特に今日はさ」

久しぶりに会うのだからという続きを言わなくても、大人しくなった歳也はビールを黙って口に運ぶ。
ふわっと外気が入り込んできて、理子が現れた。

「こんばんわ。ご無沙汰してます」
「……よぉ」
「……久しぶりぃ」

藤堂と歳也が、妙な間をあけてから短く応えたのを不思議そうな顔が受け止める。
総司が退院した後、一度顔を合わせてはいたはずだし、総司と理子が一緒にいるようになってだいぶ経つというのに、久しぶりに会った理子の変化に二人そろって驚いたのだ。

そこには、幸せ、という言葉ではかたずけられない想いに満たされた、確かに清三郎の横顔があった。正面から見ただけでは瞬間的に、どきっとするくらいだが、ふいに伏せた表情や横顔が恐ろしいくらい、あの頃見飽きるほど見ていた顔に重なる。

「うるさいのが来る前に渡しておくか」

理子の顔を直視できないことを隠して、歳也が菓子の入ったペーパーバックを理子に差し出した。律儀に礼を言った理子が中を覗き込んだところに、遅れた総司が現れた。

「はぁ、すみません。遅れて」
「言いだしっぺが遅いなんて、総司らしいよね」

けらけらと笑いながら、まだ人の少ない店内の奥まったテーブルに案内されてきた総司の肩を、藤堂がたたく。息を切らせた総司が理子の隣に座ると、待ってて、と言って藤堂が奥へと入っていった。
バーであってツマミに毛が生えた、と藤堂が自虐的に言うが、藤堂が店長になってからミールメニューもなかなか評判なのだ。フロアに出ていなかったバイトが 藤堂の代わりに取り皿や食事を運んでくると、総司と理子の分のノンアルコールカクテルとともに、ビールを藤堂が運んでくる。

「俺と歳也さんはビールだけど二人は駄目だからね」
「わかってますよ」

まだ薬は続いている総司は酒を控えていたし、理子はもともと酒には弱い。テーブルの上がにぎやかになると、藤堂が音頭を取って乾杯した。

「それ、歳也さんからですよね?」

何をもらったんです?と、総司が理子の向こう側に置かれたバックに反応する。まだよく中を見ていなかった理子が中から菓子を取り出した。

「これ!すごくおいしいんですよ。嬉しい」

色とりどりのギモーヴに反応した理子の横から総司がまだバックに残っている小さな箱を目ざとく見つけた。

―― 歳也さんだから文句なんか言えませんけど

これがほかの人からなら即座にごみ箱行きにさせたいと言うところだが、そうもいかない。苦笑いを浮かべた総司をちらりと見ながら理子は小箱を手に取った。中からは、朱色のピアスが現れた。

「似合うと思ってな」

初めは、総司がいない間にそっと渡すつもりだったが、見つかったならば逆に見立てを威張る方がいい。

「嬉しいですけど……、これじゃいただきすぎです」
「いいんだよ。昔と違って、堂々と女として恩恵受けとけ」

妙に堅苦しい言い回しに、思わず聞いている方は皆くすっと笑ってしまった。

「カタい!堅いなぁ。それは仕事だけで十分でしょ」
「うるさいんだよ」

突っ込んできた藤堂をじろりと睨みつけたが、昔と違って今は言いたい放題である。

「うわぁ。女性関係だけは昔も今も柔らかすぎるくせに~」
「お前なぁ~~!!」

ぽろっと暴露ネタを披露した藤堂にがつん、と横合いから拳が飛んだ。
いったーい、とぼやく藤堂にぷっと理子が吹き出した。

「もう。んで?総司のはどんなんなの?」
「私が二番手ですか?不利だなぁ」

ぶつくさと零しながらもバックからラッピングされたティディベアを取り出す。手にした感じから首を傾げた理子がラッピングを解くと、中から出てきたものに一瞬で顔が輝いた。

「以前、欲しいって言ってましたよね」
「子供っぽいって笑ってたのに!」
「そりゃそうでしょう」

その時は揶揄しておわったが、それがどういうものかを知れば、子供が買えるような代物ではない。
総司にしてみればただのぬいぐるみだろうが、それはそういうわけにはいかないらしい。しげしげと眺めている理子の傍で男達は、その価値がわからないだけに、黙々と食事を口に運んでいた。

そこに、恭子を伴った斉藤が現れた。
「すまん。だいぶ遅くなった」

顔を出した斉藤との挨拶は余所事のように、恭子と理子が久しぶり、と女同士の挨拶を交わす。

「恭子さん久しぶりです!これ、バレンタインありがとうございました」
「ううん。理子さんこっちこそ、ごめんなさいね。ありがとうこれ、皆さんで一緒にどうかと思って」

ほとんどプレゼント交換会の様子を呈してきたその場に、男性陣は苦笑いを浮かべる。それでも、こんなほのぼのした集まりも、贈りあう楽しみもあってもいいと思う。

「む。そういえば花見の予定はどうなったんだ?」
「そうだ。それ決めなきゃね」

ぬいぐるみやピアスや、菓子で盛り上がる理子と恭子をしり目に男達は旅行の話を始めた。

徐々ににぎわう店の中で、明日があること、未来の予定が立てられること。
想いを伝えられること、楽しみを共有できること。

きっかけはたわいもないイベントであってもいいのだ。
ただ、今は、春を待つ楽しみに興じればいい。

 

 

– 終わり –