花嵐 8

〜はじめの一言〜
ちょいと悲しいめのお話になりました。
BGM:B’z イチブトゼンブ
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「但馬!よせ!」

先ほどの男が止めに入る。囮として捕えた者を放っておけば但馬は殺しかねない。

「お前も、少しは静かにしろ。お前のような子供にわかることではないのだ」
「分かっているとも!お前たちが卑劣な奴らだってことはな!」
「お尚のことを言っているのなら、あれは望んでそうしてきたのだ。不逞浪士として夫を新撰組に殺された仇を討つためにな」

「……!!!」

セイと相田の動きが止まった。

いつ、どこで会うかもわからない、自分達が始末した者に残された者の一人がお尚だというのか。
その男、磯貝はセイの前に膝をついた。相田は、急いで再び縄を斬りだした。

「お尚の夫は長州の出といっても、物心ついた頃から江戸にいたのでどこのものかもわからないような輩だ。兵衛は、本当に碌でもない男でな。藩を首になると京に流れてきて、尊王の志士達に金で雇われるようになったのだ」

磯貝は藩を辞めさせられる前から酒井を見知っていた。その粗暴な性格からしても、眉をひそめることはあっても共に尊皇攘夷を唱えて戦うような者ではなかった。

しかし、酒井は非常に腕がたった。それ故に、京の町で暴れる酒井を見かけた後、磯貝は金で雇うことにしたのだ。

「そして、アンタ達の不逞浪士狩りにあった」

確かに、腕がたった酒井は、不逞浪士狩りの最中に護衛として新撰組と戦い、斬り倒された。お尚はそれを、その場にいて見ていたらしい。

夫が斬り殺される現場を見ながら、お尚は逃げおおせた。そして、磯貝の誘いにのり、妻となったのだ。

 

夫であった兵衛を一太刀で斬り殺した、新撰組の人斬りと言われる沖田総司という者を敵として。

 

はっとして、セイは思わず相田の方を向いてしまった。確かに、まだセイが一番隊にいたころ、捕り物の際にひどく腕の立つ浪人者を相手にしたことがあった。そこそこ、同じ程度の者たちが集まるのが当たり前であったが、時折、腕の立つ浪人者を雇っている者たちがいる。

セイは、お尚が自分を目当てに近づいてきたことをはっきりと理解した。実際はどうであれ、自分は新撰組一番隊組長の愛弟子であり、よく傍にいる。
そして、あの甘味所で会った時のお尚の姿。

あの時、自分は確かにお尚が総司を知っていると感じたのではなかったか。

―― 先生!来ないでください!!

セイは、心の中で願っていた。

水奈木に戻ったお尚は、店の者に新撰組が来るので逃げるように告げた。
店で働く者たちは、皆、京で雇われた者達だから、もちろん店に集まる彼らが何をしているのかを知っていて協力はしていても、そのために命を落とすことはない。

覚悟はあったのだろう。
店の者たちはすぐに店から去って行った。お尚は店の中を次々と確かめ、誰もいない部屋は開け放っていった。そして、彼らがいるのはおそらく奥の離れだろう。

そこへの道がわかるように、わざと襖を閉じて行った。男たちの声がする。離れの障子を開け放った。

「お尚さん!」

戻ったお尚の姿をみて、セイが驚きの声を上げた。まさか屯所へ知らせに行ったあとに戻ってくるとは思っていなかったのだ。
磯貝は、お尚の着物をみて不快そうに眉をひそめて、見なかったものとして目をそむけた。

「このお二人を離して差し上げて下さい!」

お尚は、誰の返事を待つわけでなく、セイと相田のところへ行き、縄をほどきにかかった。男たちはそれを止めることもなく見ている。相田はその隙をついて縄を切るのに成功はしたが、まだ縛られている振りを装った。

遠くから、荒々しい足音が徐々に近づいてくる。男たちがそれぞれ、刀を握った。

 

すぱぁん!

 

勢いよく障子が開け放たれて、斎藤と総司が刀を引っさげて、部屋の入口に現われた。

「沖田先生!!」
「先生方!!」

二人が叫ぶ。斎藤と総司は、部屋の様子を一瞬にして頭に入れた。
セイの頬の殴られた跡や、乱れた着物も。
相田が縄を払って立ち上がる。

「くそっ!!」

刀を抜いた男達が、次々と二人に斬りかかった。
お尚は急いで懐剣を抜いて、セイの縄を切る。床の間から二人の刀を取り上げて、相田の胸に押しつけた。

その間に、男達が次々と峯打ちや腕を斬り落とされて、戦えなくなっていく。磯貝は刀を抜くことなく、素早く部屋の向こうの障子を開けて、その身を滑り込ませた。

向かってきた者たちをねじ伏せて、斎藤と総司はふーっと息を吐く。すでに相田は自分の刀を腰にさしており、セイも乱された着物を整えていた。

「神谷さん、相田さん、怪我はありませんか」

総司が、二人に向かって問いかけた。まだ刀を納めるわけにはいかない。

「沖田先生!!」

セイが、総司の前に立ちはだかった。まるで、お尚から庇うように。
事情を知らない総司は、セイを引き寄せて脇にどかせようとする。

「どきなさい、神谷さん」
「駄目です!先生!!」

縄を切った懐剣を構えて、お尚が立ち上がっていた。

「新撰組沖田総司、お前が斬った酒井兵衛が妻、お尚。夫の仇!」

お尚が懐剣を振りかざし、総司がそれをよけて、懐剣を叩き落とそうとした。その瞬間、総司の横に除けられたはずのセイが、総司の前に飛び出した。

 

 

– 続く –