爪の先まで愛を 3

〜はじめのつぶやき〜
藤堂さんの一人称にちかい風味で。
BGM:
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午後、ウィンドウショッピングの合間に、大学の同期がやっていると言って、理子をネイルサロンに連れて行った藤堂は、女子しかいない店内で悪びれずに隣に座って話し続けた。

「司君、彼女~?」
「そうそう。頼んでもいい?」
「もちろん。こんにちわ~って、あれ?!神谷さんじゃん?」
「えっ」
「私も学部違うけど、同じ授業取ってたよ!藤村ですー。よろしくね」

そういうと、あれこれと話が弾み、結局ピンクをベースにしたフレンチネイルにラインストーンをつけてもらった。
藤堂も普通に参加してあれこれとデザインに口をだし、ラインストーンまで選びだした。

「だからさ、こういう風にして、ここだけピンクの石がいいな」
「じゃあさ、ここまでこうジルコン並べて、ここをピンクトルマリンにしようよ。可愛いよ」
「え、ストーンって結構とれちゃわない?」

勝手に盛りあがってデザインを決めてしまった藤堂と藤村に、そこまでしなくても、と割って入った理子に、二人がステレオで叫んだ。

「「可愛いからいーの!」」
「あ……、はい」

勢いに負けて頷いた理子は結局、左右の薬指にだけラインストーンをつけてもらうことになった。同級生価格よ、と言って割引してくれた藤村に支払ったのは藤堂だった。

「ちょ、ちょっと~、それは流石に出してもらいすぎだってば。それに、そんなのつけてたらもったいなくて水仕事できないし」
「いいんだよ。今日は俺が連れ回してるし、それも俺の趣味。何の問題もないでしょ?ジェルだから大丈夫だよ。そんなに簡単に取れないしさ」
「きゃー、司君、言うわー。聞いてる方が恥ずかしい。いいじゃない、神谷さん。出してもらっちゃいなよ」

 

 

ボリュームを落としてテレビをつけると、藤堂は部屋の明かりを暗く落とした。手の中で携帯を転がすだけ転がすと、静かに立ち上がってベッドサイドの テーブルから理子の携帯を手にした。落ちそうになった理子をどうにか自発的に服だけパジャマに着替えさせてベッドに寝かせてある。

「神谷、携帯、ちょっと借りるね」

規則正しい寝息を響かせた理子に聞こえていない前提でそういうと、自分の携帯にも登録のある番号へ発信した。

「もしもし。俺」

電話の向こうでびっくりするくらい早く相手が出る。

「今ね。グリニッチのとこのホテル。1015号室。今日は帰さないから。じゃあね」

一息で言いたいことを言うと、相手が何かを言っているのを聞かずに通話を終わらせる。ベッドサイドに携帯を返すと、さっきまで座っていたソファに座り込んで、膝を抱え込んだ。

―― なにやってるんだかなぁ。俺。

自分に呆れながらも、こういうのもたまにはいいよね、と一人で納得する。
日付の変わりかけた時間にやっているテレビなど、スポーツニュースかビジネスマン向けのニュースだけだ。興味もないだけに眺めていても全く頭には入ってこない。
クロークから目が覚めたときのためにバスローブを持ってきて、使ってないほうのベッドにおいた。ちょっと使ったっぽい感じで広げるのはわかりきった嫌がらせである。

 

どんっ!どんどん!!

 

確かに夜中とはいえ、時計を見ると、ようやく三十分たつかというところだ。こんな速さで来るか、と思いながら急いでドアをあけに行くと、息を切らせた総司がそこに立っていた。
目の色が変わってるのを無視して、藤堂がドアを押さえた。

「他の部屋にも迷惑だからやめてよ。それに……起きちゃうじゃん?」

額からも汗を流して、荒い呼吸をしている総司が藤堂を押しのけるようにして部屋に踏み込んだ。

ツインの片方のベッドだけがもこっと盛り上がっていて、隣にはバスローブが広げてあって。

「あ、服はバスルームね」

いかにも誤解してください、という状況を作り上げておいて、藤堂だけ服を着て普段どおりの姿でそこに立っている。頭に血が上っているとはいえ、振り返った目の前に立っている藤堂に総司が困惑した顔を向けた。
平然とその視線を受け止めた藤堂が、ポケットからカードキーを取り出した。

「鍵。ね、見てよ、これ。可愛いでしょ」

すたすたと移動した藤堂が理子の眠るベッドの傍らに腰を下ろして、眠る理子の左手を持ち上げた。指先のネイルがキラッと光る。わざとゆっくりその手を引いて、藤堂は薬指にキスした。

ぐいっとその肩を総司が思い切り引いて低い声で総司が呼んだ。

「……藤堂さん」
「何?」

はっきり挑発の意志を見せた藤堂が理子の手をそっと置いて総司を見上げた。

「俺は神谷には何もしてないよ?総司と違って」
「私は、この人の婚約者です」
「でも、最初は、ねぇ?」

全身から怒りを滲ませた総司に向かって、意味深に笑う藤堂が立ち上がった。

「ねえ、総司。二人の間のことだろうがなんだろうが、神谷が不安になったりするだけで駄目だよ。許さない」
「……それは藤堂さんに言われることじゃないでしょ」

この部屋に現れてから初めて、総司がふっと冷たい笑みを浮かべた。
優越感を見せたその笑みに、挑発していた藤堂が今度は挑発される。立ち上がって、総司の肩口を掴んだ。

「あんまり、俺のこと見くびらないでくれる?いつだって奪いにいけるんだ。それをしないのは神谷がそれを望んでないからだけで、何年立ったってかわんないよ。これからもね」
「私も、何年たっても離しませんよ」
「ふうん。まあ、せいぜい頑張ってよ。俺は歳也さんみたいに大人じゃないからさ。ピアスみたいにはずせるものじゃないよ」

―― 神谷を抱いてるときもあの爪をみてせいぜい悔しがれば?

突き飛ばすようにして、総司を押しのけると藤堂は部屋を出た。エレベータホールで下に降りる呼び出しボタンをおして待つ。

「……何やってんだろ、俺」

情けなさ過ぎて泣けてきそうだ。それでも、これでしばらくは総司も少しは考えるだろう。

「どうせ、神谷が振り向くことなんてないのにさ。……馬鹿だ、ホントに」

自分も、思った以上に酔っ払ってると思う。真っ直ぐに家には帰らず、仕事先に向かうと、今日だけは客として飲んだ。

理子の指先からあの石がなくなるまでは、せめて爪の先だけでも自分のものだ。理子は気づいていなかったけど、総司は気づくかも知れない。
両手を組み合わせると、薬指同士でラインストーンのハートが出来上がる。真ん中にピンクの石。

「司ちゃん、今日は飲まれてるねー。どっかで振られてきた?」

カウンター越しに同僚のスタッフに声をかけられた。木目の上にべったりと顔をつけて、それでも藤堂は笑った。

「ううん。振られてないよ。まだまだこれからだからさ」

爪の先まで愛を。

– 終わり –